前回の続きです。
米田衆介著のアスペルガーの人はなぜ生きづらいのか?のまとめというか書評というか殴り書きです。
一章ごとに、発達障害の特性を持つ者に切れ味するどい絶望をあたえてくれる本書。
可能性に生きることを諦めさせ、発達障害の特性を手放すことはできないという現実により、生き方見直さざるをえなくなる気持ちを共有したいので、引き続き内容のまとめをしたいと思います。
今回は「社会にマッチしないこと」という意味の「不適応」についてです。
人と付き合っていく上で「不適応=何かのちぐはぐ」がうまれて「なんで自分は人と違うんだろ」感はつらいです。でも、そういったハンデを持つ人は深く物事を見ることが難しいので本人はその原因がわかりません。
しかし、不適応の事例で「あるある」感を得られれば、それを客観視できます。
そして、その対策をみることでそのつらさを少しでも緩和できれば。
不適応を大きく分けると5つになります。
- 社会的能力に関係した不適応
- 作業能力に関係した不適応
- 自己統制に関係した不適応
- 過敏性と易疲労性の不適応
- 能力障害以外の不適応
それぞれの詳細のうち今回は、社会的能力に関係した不適応を見ていきましょう。
目次
社会的能力に関係した不適応
社会的能力とは、学校なり仕事場なり家庭なりの人間関係のことです。
この不適応は、人間関係がうまく結べないということです。
悩み事の全ては人間関係、なんていう人もいるくらい人間関係は生きづらさに直結します。
本では、
(対人関係の障害が) まったくないアスペルガーはいない
などと衝撃の事実をさらっと明らかにします。確かに、私自身まともな人間関係を築けてません。
社会的能力といっても広いので4つのタイプに分けて説明しています。
- 自己中心性
- 過剰適応
- 関係過敏
- 調整能力の欠陥
自己中心性
自己中心性は、自分に関わることしか関心が持てない、つまり他者の感情への無関心、ということです。 いわゆる「他の人の気持ちがわからない」ってタイプですね。これでは他の人と、不適応=合わない、となってしまいます。
自己モニターが壊れてるんだもの、自分が何考えているかわからないのに他の人の気持ちがわかるはずがありません。
この問題は非常に大きいです。誰だって誰かの貢献により生かされてるのに、その他の人の気持ちがわからない、ってのは本当に致命的と感じます。生きていく上で最も大事な「ありがとう」が薄いんですよね…。
本においてのこの章の残酷ポイントは、
他者の視点からどう見えるかを、いつでも推測できるようになるとは限りません
ですね。
アスペルガーの人は前回説明の通り勉強以外の学習能力の問題があるから、頑張れば必ず身につけられるようになるみたいな精神論をあきらめましょう。つらいですが。
対策ですが、自発的にできるものは書かれてません。
当事者の周りの人に対するアドバイスだけです。
(普通の人の)「他者の気持ちを考えるように。」は全くナンセンスです。
ナ・ン・セ・ン・ス!(お・も・て・な・しのポーズで)
じゃあ具体的にどうすればいいか?
「〇〇すると、こう思われて、このように損します」 「△△の場合には、このようにすることが決まっています」
みたいな、善悪といった価値観を含めずに、論理的な説明をすることのようです。
自分もすぐ善悪の判定を入れてします。当事者の周りへのアドバイスですが、自分へも言い聞かせも無機質な組み立ての話が有効かもしれません(そのまえに自己モニタが壊れてるので学習できない問題がありますが…)。
過剰適応
過剰適応は、理想や周りと合わそうとがんばりすぎてしまう、というタイプのことです。
杓子定規で「こうするべき」という像があり、融通の利かないやり方で極端に頑張ってしまいます。 それで、「燃え尽き」やうつ病などの二次災害が起きてしまったり。
これは、前回説明したハイコントラスト特性が原因となります。
普通の人は「本音」と「建前」の間をいったりきたりします。「今は本音0.3、建前0.7」みたいな。
アスペの人は「本音」or「建前」のどちらかです。ハイコントラストに0か1かになってしまうんですね…。
対策ですが、これまで絶望を与えてきたのに珍しく結構あるようです。
- 強制的にでも休む
- 「本音」と「建前」を区別する練習をする
- 自己モニターの強化
- 周りが「がんばらせない」
などなど。
ちなみに、私は休みを意識的にとるよう作業時間のタイマーを使うようにしました。あと水を一杯飲むことでトイレに行かざるをえないようにするなどもしてます。こういった強制的な仕組みは、学習能力の問題があるアスペにとっては本当に有効に感じてます。
関係過敏
関係過敏は、「他者にどう思われているか?」など他人との関係に対して過剰に敏感、というタイプのことです。
「他者とはこういうものだ」と勝手なモデルを頭の中に形成しますが、アスペルガーの人は頭の中のメモリが小さいことが原因で精密化できないので、感情を読むことはある程度ができるが的外れになります。
しかも、この「他者がどう見ているか?」の勝手な答えを自己評価の基準にしてしまい、自己評価が著しく下がり、人と関係を持つことがつらくなります。
この関係過敏は2つのタイプに分かれるようです。感覚が過敏で、声や接近など物理的な刺激で不快になるタイプ、価値判断の信念に問題があるタイプの2つです。
前者の感覚過敏タイプの例は、「何だか人が多くて疲れる、場違いなんだ、場違いだから周りは気味悪がられるだろう」といったものです。
後者の誤った信念タイプの例は、「友達が多くあるべき」という硬直した信念を持ち「友達のいない自分はきっと軽蔑される」と考え自分の評価を低くしてつらくなるといったものです。
対策ですが、本ではまず「関係に慣れても改善しない可能性がある」ということを言い放って与えてくれます。
その前提ではありますが、以下の2点の対策が提示されています。
- 硬直した自己イメージに問わられない
- 他者からの評価にとらわれることからの自由
しかしこれを直接的に求めても、そのアスペルガーの自己モニター障害の特性などからして困難ではありますね…。理論は簡単なのですが…。
本では、内側の目標よりも、外側の目標に切り替えたほうが改善するのが一般的とあります。
調整能力の欠陥
調整能力の欠陥は、他者理解は頭ではできているが、その場ではできないタイプです。このタイプは他の不適合よりも軽傷とあります。
働けているアスペルガーの大部分は、この「頭ではわかっているが、その場ではできない」ということになるそうです…。
対策ですが、軽傷なタイプであるため訓練が有効とあります。
どんな訓練かというと、ソーシャルスキルトレーニングと呼ばれる、実践的な対人状況で「あいさつ」「会話のときのルール」「頼んだり断ったり」を身につけるものです。
この訓練には、各個人が「生活に困らないレベル」があり、適切なゴール設定が必要になります。
訓練で社会能力が機能するようになる、みたいな甘い言葉で高揚させておいてあっさり突き落とすのがこの本の気持ちいいところで、
本人が訓練することによって、解決できる問題は少ない
訓練等による機能等の向上には限界があるのです。ほとんどの問題は訓練ではなく環境調整によって解決すべき問題
とあります。本当に泣けます。
感動巨編のヒューマンドラマです、この本は。発達障害本界のレ・ミゼラブル。あぁ無情。
まとめ
アスペルガーの社会的能力に関係した不適応についてまとめました。
- 自己中心性
- 過剰適応
- 関係過敏
- 調整能力の欠陥
という4つのタイプはどういう症状か、それらがどのくらい自分に当てはまるかを理解し、それらの対策を実行していくしかありません。
基本的には完全な改善はなく、かつ自分だけではできることはない、というのが本当につらいですね…。
次回は、作業能力など不適応の続きをまとめていきますのでお付き合いください。

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